G.F.ヘンデル:オラトリオ「サムソン」より  “輝くセラフィムよ、炎の列となり”

 G.F.ヘンデル(1885-1759)のオラトリオ「サムソン」HWV 57 は1743年2月18日にロンドン、コヴェントガーデン劇場にて初演されているので、代表作のオラトリオ「メサイア」HWV 56(1742年ダブリン初演)の翌年の作品。
このアリア“輝くセラフィムよ、炎の列となり ”は終幕にソプラノ(イスラエルの女・Israelitish Woman)により歌われ、トランペットによる華麗なオブリガートが花を添える。今回の演奏では通常トランペットで奏されるオブリガート・パートをモダン・クラリネットで演奏する。
 サムソンは旧約聖書に登場する怪力の男で、最終的には敵の攻撃により命を落とすが、神の導きにより天国に迎え入れられる。 曲の冒頭3小節目からトランペットによる華やかなオブリガート(序奏)が提示される(楽譜A=パート譜・クラリネット用に移調された)。その後、天国からお迎えの号令が掛かるが、この時、天使のラッパ(Angel Trumpet)が雲の間から響き渡る(楽譜B・2段目・下パート)。

ここで、ソプラノ・ソロと天使のラッパの応答場面を楽譜からご紹介する。楽譜B・2段目の*印箇所ではソプラノにより、their loud, up lifted angel trumpets blow, (高らかな声、そして持ち上げられる。天使のトランペットが息を吹き込む)と歌われる。アリアの最大の聞き所かと思うが、ソプラノの掛け声によりトランペットが高らかに、そして威厳を持って答えている。 

 題名にあるセラフィムは最も位の高い天使の名前で、聖書箇所より一部ご紹介させて戴く。 新約聖書(新共同訳):「テサロニケ信徒への手紙Ⅰ(4-16) 」に、“すなわち、合図の号令がかかり、大天使の声が聞こえて、神のラッパが鳴り響くと、主御自身が天から降って来られます。…….” とある。ちなみに、新約聖書:「ヨハネの黙示録」にはラッパを持った七人の天使達が登場してる。 ルネサンスの巨匠ミケランンジェロ(1475-1564) がシスティーナ礼拝堂に描いた“最後の審判(1508-1512)”には天使のラッパが描かれている。ちなみに中央の天使(左から4番目)が最後の審判を告げるラッパを吹く天使、右下で本を開いているのが、悪行の書を手にする天使。

 

 

 ヘンデルは原典譜ではinD管トランペットを指定しているが、今回、いずみホールでの演奏ではモダン・クラリネットinB♭管を使用した。もっとも、リハーサルを通じクラリネットを用いても違和感が無いことが判った。なお、コンサートでは、ソプラノ・ソロ、クラリネット、ピアノによる3名で演奏された。
18世紀・最初期のクラリネット(バロック・クラリネット)については、別のレポートでご紹介させて戴ければと思うが、2005年にザ・フェニックスホールで開催した“古典クラリネット・ファンタジー”にて、この最初期のinD管クラリネットの響きをサンプルとしお聞きいただいた際、友人が率直に“トランペットのような音に感じた”と言ってくれたことを想い出した。例えば最初期のクラリネットは楽譜B・1段目・下パート・(矢印)のような、本来トランペットが得意とするリズム表現にも適している。

(加筆/ 2018.1.)

追記:2008年夏、バロック・クラリネット Live を行いました。よろしければ「古楽器の音」動画Live を訪問下さい。