CDに“イタリアのアンティック・オルガン~トスカーナ~”というタイトルのものがあった。付属のブックレットを見ていると、Hiroshi Tsuji, Shirakawa(Japan)という表記が目に入った。イタリアのピストイアという都市のSanta Maria delle Grazie alias del Letto教会にある1755年に建造されたオルガン(by Antonio and Filippo Tronchi)は1987年にHiroshi Tsuji,Shirakawa(Japan)により 修復されたとある。このCDは留学時代の1995年頃購入していたものだったが、その後帰国してからかなりの年月が経っていた折、TVで岐阜県の白川町のパイプオルガン製作者であられる辻宏氏が、スペインのサラマンカ市の大聖堂のルネッサンス時代のオルガン(“天使の歌声”と呼ばれたオルガンだったが、約200年間も殆ど音が鳴らなくなっていた)を見事に修復されたという内容のものが放映された。サラマンカ市の宝とも言えるこのオルガンを、外国人に修復を任せるという許可は容易には下りず、辻氏の長年の熱意が通じてようやく修復許可されたのは、氏が初めてこのオルガンに出会われてから14年後だったという。修復費用をまかなうべく募金活動も行われ、1990年に現代に見事に蘇らせることが出来たというとても感動的なものだった。その時、ふと前述のオルガンCDを思い出し、目を皿のようにして眺めているとHiroshi Tsuji,Shirakawa(Japan)の表記が見つかった。今日、本当に久しぶりにこのCDに収めれれている辻宏氏が修復されたオルガンの響きを聞いてみた。柔らかくて温かみのある素朴で美しい響きだった。このCDに出会えたこと、そして辻宏氏というオルガン製作者の素晴らしい業績をも知ることができたことに感謝している。