《古典クラリネットでの取り組み》                                                                      三戸久史

序奏

 古典クラリネットとの最初の出会いは、1980年ドイツから来日したコレギウム・アウレウム合奏団(Collegium aureum)(a)の演奏会で、モーツァルトのクラリネット協奏曲イ長調KV.622をH.ダインツァー(Hans Deinzer)の吹くバセット・クラリネットで聞いたことでした。このオリジナル楽器によるオーケストラは、18世紀の宮廷オーケストラの編成をモデルにしており、その多くの録音もドイツ、キルヒハイムのフッガー城・糸杉の間などで行っており、私はその典雅な響きにすっかり心を奪われてしまったことを思いだします。ツゲ製でキイの数が少ないシンプルな構造のクラリネット、この日私はクラリネットの故郷(源流)に出会ったような鮮烈な印象を受けました。

その後、忙しさの中にあり、留学などをする機会などはありませんでしたが、1992年、オランダ在住で古典クラリネットのエリック・ホープリッヒ(Eric Hoeprich)氏の門を叩き、個人レッスンを受け、そして間もなくデン・ハーグ王立音楽院に籍を置き、正式な生徒となりました。オランダのハーグは古楽器演奏の中心的な発信基地の一つとして知られ、約12カ国より留学生が専門に古楽器を学ぶために集まって来ていました。エリック氏は米国ハーヴァード大出身で、F.ブリュッヘン(Frans Bruggen 指揮者、リコーダー奏者)に出会ったことによりオランダに渡り、代表的な古楽器演奏団体である 18世紀オーケストラ(Orchestra of the 18thCentury)(b)のソロ奏者を務めるなど、幅広い活動を行っている古典クラリネットのパイオニアの一人です。レッスンは厳格なものでしたが、エリック氏の音楽への姿勢はいつも新鮮で、モダン楽器ですでに演奏経験のある楽曲においても、古典クラリネットで演奏してみると、新たな発見や喜びもありとても有意義なものでした。2年間を音楽院で学び、ディプロマを戴き卒業しました。
当時私は、古楽器を習得するためにオランダに留学したのですが、2年目より古典クラリネットと平行してクラリネット(モダンクラリネット)をピート・ホーニング(Piet Honingh)氏に学ぶことになりました。ホーニング氏はオーケストラ奏者として何度も来日されていましたが、我が国ではそれ程知られていなかったようですので、これを機会に紹介させて戴きます。オランダ人奏者のピート氏はロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団(c)に1961年に入団された方で、同オケの主席奏者も務められたベテラン奏者でした。ピート氏はダンツィ・クインテット(d)(Danzi Quintet)のメンバーでもあり、オランダでは最初に古楽器(古典クラリネット)を始めたお方で、1960年代にチェロのA.ビルスマ(Anner Bylsma)と共に、ベートーヴェンの3重奏曲Op.11を録音されていました。
オケマンとしても、E.ヨッフム(E.Jochum 1902-1987)、C.M.ジュリーニ(C.M.Giulini1914- 2005)、L.バーンスタイン(L.Bernstein 1918-1990)、C.クライバー(C.Kleiber 1930-2004)、N.アーノンクール(N.Harnoncourt1929- )、B.ハイティンク(B.Haitink 1929- )などの指揮者の下で演奏経験をお持ちの数少ない奏者かと思われます。ピート氏は残念ながら1996年に引退されてしまいましたが、彼の下ではスウェーリンク音楽院(現アムステルダム音楽院)に籍を置き、96年にディプロマを戴き卒業しました。私はピート氏の最後のクラスの生徒の一人でしたが、その暖かい人柄と大きな音楽に出会えたことは大変幸せなことでした。

 

1.古典クラリネット

 古典クラリネット(Classical Clarinet)とは、一般的には古典派の時代(18世紀後半~19世紀初期)に使用されていたクラリネットのことを指しますが、現代(モダン)クラリネットと区別するため、“古典”と呼んでいます。材質は一般的にはツゲ材で、真鍮製のキイ、管のつなぎ目には象牙、水牛の角などが使用されます。基本のピッチ(クラシカルピッチ)はA=±430Hzを使用し、これがモーツァルト(1756~1791)やベートーヴェン(1770~1828)時代の演奏ピッチであった言われています。運指はフォーク・フィンガリング(fork fingering)、クロス・フィンガリング(cross fingering)を多用し、現在のドイツ式(エーラー式)クラリネットの源流に当たるものです。一方、現在のフレンチ式クラリネット(ベーム式)クラリネットは、1840年ころ完成されていてフルートの製作者として知られるT.ベーム(Theobald Boehm 1794-1881)による新しい運指(フィンガリング)を採用しており、古典クラリネットからドイツ式クラリネットが本家本元の流れ(幹)と考える時、こちらは新た派生した大きな枝と捉えるのが妥当かと思います。

 さて、古典クラリネットの音色のイメージとしては、柔らかくて素朴といった趣でしょうか? 響き自体はモダン楽器の安定した均一さを求めれば、少しばらつきがありますが、豊かで良く鳴る音、また反面少しくすんだ陰りのある音も残されています。このように書きますと欠点をもった楽器?と思われるかもしれませんが、このような特徴を長所としてとらえて演奏することで、音色(色彩)の変化を作り出せます。それは微妙な感情表現にも繋がるのでは?と感じます。また運指の工夫により音色の変化を作り出すことが出来ます。この音色の変化を作り出せる可能性はモダン・クラリネット以上だと思います。この楽器は元来クラリネットが持っていた柔らかくて美しい純粋な響きが残されていると感じます。モダン・クラリネットは、どの音も均一でムラがなく、音程も限りなく正確さを求めて製作するのが各メーカーにおいてのコンセプトですが、古典クラリネットは元来そのような概念は無かったので、楽器そのものの機能面においては不完全なままです。ただ、本来この楽器が持っていた柔らかくて素朴な飾り気のない響きが残されているように感じます。1812年に、I. ミューラー( Iwan Müller 1786-1854)(e)が何調でも演奏可能なクラリネットを発表した時、当時のパリ音楽院の6人からなる特別委員会は、ミューラーの新発明の楽器に不可の判決を下し、不採用としました。現代から見ると理解できない判定ですが、“我々は6キイのクラリネットの響きに満足している。キイが多くなれば学習者にとって余計に混乱するだけである”との判定でした。 この6キイのクラリネットは、当時のパリ音楽院ではスタンダードの楽器で、1802年にJ.X.ルフェーブル (J.X.Lefèvre 1763-1829)(f)によって書かれた「クラリネットのためのメトード」も6キイのクラリネット学習用のものでした。21世紀初頭に生活している我々の耳は、マーラー(G.Mahler 1860-1911)やストラヴィンスキー(I.Stravinsky 1882-1971)の響きもすでに知っており、受け入れています。日頃聞き慣れたオーケストラや楽器の音色がある個人にとってスタンダードであると定義付けるなら、私が音大時代に初めて古楽器の演奏に触れた時、とても新鮮に感じたことは当然であった様に、振り帰れば思うのです。 私にとっては、古楽器は古い楽器でもあり、とても新しい楽器でもあります。

さて、モーツァルト(W.A.Mozart 1756-1791)もベートーヴェン(L.v.Beethoven 1770-1827)も当時のクラリネット(現在から見ると古楽器=古典クラリネットに当たるが、当時では最新の新しい楽器、すなわち現役で使用された楽器)の扱いには熟知しており、時に演奏上の困難さは伴うにしても、不自然な響きは全くと言っていい程感じさせません。

私が古楽器を吹いてみたいと思った理由の一つは、モダン・クラリネットで古典派の作品を吹いていて、演奏のコントロールは大変やり易いのに、なぜか滑らかに均一に鳴ってしまい、少し味わいが不足気味に感じたことことがあったからです。こう考えますと、モダン・クラリネットは元来この楽器が持っていた素朴で柔らかい響きを失ってしまった部分があるのでは?と感じます。 
私はモダン・クラリネットも演奏していますが、当然のことですが、プーランク(F.Poulenc 1899-1963)のソナタや、ドビュッシー(C.Debussy1862-1918)のラプソディーでは現代クラリネットで演奏します。もし、これらの作品を古典クラリネットで演奏しようとトライしても不可能です。楽器自体の機能が現代楽器ほどには整っていないからです。またそんなことを試みることは滑稽な行いであり、試みるものでもありません。作曲家にとって音楽作品を書く場合、その時代に現役として使用されていた楽器を想定して書くという条件、制約の中で仕事をしていたことが浮かび上がって来るのではないでしょうか?

一方、現代楽器を使用して、古典派の作品を演奏することはもちろん可能であり、世の中の素晴らしい演奏団体やソリスト達の例を見るにおいて今さら何も言うことはないかと思います。 ただ、この際は時代の様式感であるとか、表現方法(「ピリオド奏法」又「古楽奏法」という表現をされていますが、これは現代楽器を使用しつつも古典派の音楽を演奏する際、古楽器演奏での表現、解釈に習って演奏するアプローチ)が重要と捉えて、モダン楽器専門の団体などもこの表現方法を積極的に受け入れてトライすることが、世界的なムーブメントとして多く見られるようになって来たことは、とても良い傾向だと感じます。よく知られる例としては、ジンマン(David Zinman 1936- )によるベートーヴェンの交響曲全曲(チューリヒ・トーンハレ管弦楽団)等々があります。また、ラトル(S.Rattle 1955- )もこのアプローチを早くから採用している一人と言えます。

古典クラリネットの演奏においては、マウスピースやリードはモダン・クラリネットの界の様に、これといった規格がなく、あれこれと試したりと苦労することもしばしばです(笑)。モーツァルト(W.A.Mozart 1756-1791)がクラリネットの音色の多様性を良く理解していたことは疑いありませんが、例えば、オペラ「後宮からの逃走」では、inC管を明るく鋭いリズムのある音楽に用いる反面、inB管では美しい叙情的なアリアなどに効果的に用いられています。モーツァルトがクラリネットの音色を愛していたことはよく知られていますが、1778年12月、旅先のマンハイムからザルツブルクの父宛の手紙で、「ああ、私達にクラリネットがあったら!フルート、オーボエ、そしてクラリネットが入った交響曲がどれ程素晴らしい効果をもたらすか、ご想像も出来ないでしょう」と書いています。まさに彼が聞き、自らの作品に用いたクラリネットは、ツゲ製で5つの真鍮製のキイが付いた簡単な構造の楽器でした。モーツァルトよりクラリネット5重奏曲KV.581や協奏曲KV.622を捧げられたA.シュタードラー(A.Stadler 1753-1812)もこのタイプの楽器を使用していたのです。

 

2.オリジナル楽器による演奏

オリジナル楽器による演奏(古楽器、ピリオド楽器、クラシカル楽器による演奏とも呼ぶ)は、作曲家が作品を書いた当時の楽器(オリジナル楽器又は、忠実に複製されたコピー楽器)を使用し、当時の演奏法や様式を踏まえて演奏することにより作品に新たな光を当て、そしてそれにより新たな発見がもたらされます。時代楽器(On Period Instrument)による演奏と呼ばれることもあります。
 演奏レパートリーとしては中世ルネサンスからバロック時代を経て、古典期、初期ロマン派、ワーグナー、ブラームス、ブルックナー等の後期ロマン派の作品位までが演奏されています。 主なる古楽復興の活動は20世紀後半に始まり、スイスのアウグスト・ヴェンツィンガーが設立した研究機関バーゼル・スコラ・カントゥルムや、イギリスの古楽復興をおこしたA.ドルメッチ(Arnold Dolmetsch1858-1940)などの先人達の活動が知られますが、これらの潮流はオランダ、ベルギー、ドイツ、フランス、アメリカ、カナダなど、そして日本にも伝わり、様々な個性的な演奏グループやソリストが活動するようになり、特にヨーロッパでは古楽器演奏の市民権を確立したと言っても良いと思います。もっとも英国は早くから独自に古楽器演奏の研究が進んだ国で、多くの演奏者や研究者を排出しています。我が国におきましても古楽器演奏の理解者、ファンが増えつつあることは喜ばしいところです。これらの活動は単に学究的な好奇心や興味により成されて来たものではなく、実際に広く一般的に受け入れられつつあります。ヨーロッパでは、たまたま聞きに出かけた演奏会が古楽器によるものであったことは普通に見られる状況にあります。この約20年の間に古楽復権の現れと思われかと思いますが、演奏団体の増加、音楽学の研究成果、演奏技術の向上は目覚ましいものがあります。このことは一つのムーブメントと言えますが、それだけ昔の演奏はどんなだったのだろう?また、どんな楽器で演奏されたのだろう?それならば、一度“昔に戻ってみようよ” という運動であったとも言えると思います。これは演奏者、聴衆にとっても興味津々である試みで、その成果は研究と努力の積み重ねによるものに違いありません。
筆者にとっても、ドイツから1984年に来日したコレギウム・アウレウム合奏団によるベートーヴェンの交響曲第3番「英雄」の演奏は新鮮で且つ衝撃でした。今回のレポートでは、クラリネットが編成に組み込まれている演奏形態から幾つかをピックアップをしまして報告させて戴ければと思います。その1つとしまして、L.ノリントン(Sir Roger Norrington)指揮、ロンドン・クラシカル・プレイヤーズ(London Classical Players)(g)による、スメタナの交響詩「我が祖国(全曲)」を1996年にロンドンで聞く機会がありましたが、この演奏はプラハで出版された初稿譜に基づきオリジナル楽器が使用され、十分にコントロールされた説得力がある素晴らしい演奏でした。 又 近年のオリジナル楽器演奏の傾向として、レパートリーの拡大(オーケストラの団体)が見られます。P.ヘレヴェッヘ(Philippe Herreweghe)指揮のパリ・シャンゼリゼ管弦楽団(Orchestre Des Champs Elysees)(h)は、近年ブルックナーの交響曲第4番「ロマンチック」を演奏し、F.ブリュッヘン指揮18世紀オーケストラはブラームスの交響曲第4番を演奏しています。もちろん古典派のレパートリーも活発に演奏されていて、先日HHK-TVでも放映された R.ヤーコブス(Rene Jacobs)指揮によるコンチェルト・ケルン(Concerto Köln )(i)によるモーツァルトのオペラ「フィガロの結婚」は記憶に新しいところですし、今春東京であった音楽祭LFJ「ラ・フォル・ジェルネ」にもコンチェルト・ケルンが出演し、ベートーヴェンのミサ・ソレムニス等を演奏しました。 私自身もドイツでの古楽器フェスティバルでの演奏や、オーケストラ・シンポシオン(j)、東京バッハ・モーツァルト・オーケストラ(k)、テレマン室内オーケストラ(l)などでの演奏、 パリ・シャンゼリゼ管楽合奏団(Harmonie de l’Orchestredes Champs Elysees) (m)などでのハルモニー・ムジーク(管楽合奏)の経験などを通して、古楽器演奏の喜びや可能性を知ることが出来ました。

 

ドイツ、クローナハでの管楽合奏

ドイツ、マルクノイキュルヘン St.ニコライ教会での演奏会

 

3. レコーディング

 

2003年に古典クラリネットの取り組みにの一つのまとめとして初CD録音をしました。場所はオランダの古都ユトレヒトのマリア・ミノーレ教会(Maria Minor Kerk)での収録となりましたが、この教会は18世紀の建造で大変素晴らしい音響を持っており幸運でした。収録は計5曲で、ルフェーブルのソナタト短調(J.X.Lefevre 1763-1829、パリ音楽院初代クラリネット科教授)、バックオーフェン(J.H.Backofen 1768-1839)のコンチェルタンテ、ウェーバー(C.M.v.Weber 1786-1826)の変奏曲Op.33等で、使用楽器はバセットホルン(18世紀最後期、復元楽器)、クラリネット(1835年頃のオリジナル楽器 Raver a Bordeaux )、クラリネット(19世紀初頭、復元楽器)の計3本、伴奏にはそれぞれ作品が誕生した当初のフォルテピアノ(2台)、シングルアクション・ハープ(2台)を使い分けて録音しました。録音中に教会横の通りからストリート・オルガンの楽しい音が聞こえて来て、一時中断したりと、楽しい一幕もありました(当ホームページにてレコーディング情報を掲載しています)マリアミノーレ教会でのレコーディング

古都ユトレヒトの街並み。名物のドーム教会が見える

   
   

 

4. フォルテピアノ、弦楽器との演奏

2005年8月24日、ザ・フェニックスホールでのエヴォリューション・シリーズ 『三戸久史 古典クラリネット・ファンタジー』を開催いたしました。今回はフォルテピアノとの2重奏で、C.m.v.ウェーバー(1786-1826)の変奏曲Op.33、F.ダンツィ(1763-1826)のバセットホルン・ソナタ、メンデルスゾーン(1809-1847)のソナタ、I.ミューラー(1786-1854)の 6つのセレナード を演奏しました。フォルテピアノは1820年にウィーンで作製された貴重なM.シュタイン(n)を使用させて戴きました。また楽器紹介として、シャルモー、バロック・クラリネットの音色にも少しだけ触れていただきました。

また同年3月、東梅田教会での『古典クラリネット・リサイタル 歴史的楽器の愉しみ 』では弦楽器と共に室内楽曲を3曲演奏しましたが、3本の古典クラリネットを使い分けての少々凝ったものとなりました。演奏曲はホフマイスター(1754-1812):4重奏曲イ長調(1802)、クルーセル(1775-1838):4重奏曲ハ短調(1804)、モーツァルト(1756-1791):5重奏曲KV.581(1789)(復元モデルのバセット・クラリネットinA使用)を取り上げました。なお、アンコールとして、ウェーバー:クラリネット5重奏曲Op.34から第2楽章“ファンタジア”を演奏しました。
最後に、私に取って古楽器演奏への興味の扉を開いてくれた書物に、オスカール・クロル著「Die Klarinette」クラリネット・ハンドブック(大塚精治、玉生雅男 共訳  音楽之友社刊)がありましたが、御教示戴きました大塚精治、故玉生雅男の両氏に感謝の気持ちをお伝えしたいと思います。

 

 5. 2005 国際クラリネット・フェストTAMA東京

このフェストでは、古楽器部門においては氏、ヨッヘン・セゲルケ氏が主宰するクラリモニア(Clarimonia)(o)とエリック・ホープリッヒ氏がそれぞれレクチャーコンサート)を開催しましたが、私は2重奏で師のホープリッヒ氏と共演させて戴く機会がありました。7月20日はエリック・ホープリッヒによる《古楽器による講演とリサイタル》と題したコンサートが催され、ウェーバー:変奏曲Op.33、ベートーヴェン:ホルン(バセットホルン)ソナタOp.17、C.P.E.バッハ:2重奏曲、C.クロイツァー:2重奏曲から、W.A.モーツァルト:2重奏曲(2本のバセットホルン)からで、ホープリッヒ氏はグリースバッヒャー作のバセットホルン、グレンザー作のクラリネット(共にオリジナル)を使用して演奏されました。共演はフォルテピアノが小倉喜久子、クラリネットが坂本徹、三戸久史でした。

7月21日にはドイツから来演のクラリモニア(Clarimonia/2007年の来日時に共演させて戴く機会がありました)のJ.セゲルケ、B.ケースリング、E.ザウアーによる《3人の古楽器奏者によるクラリネット300年の歴史》があり、モーツァルト:オペラ「フィガロの結婚」、「魔笛」からはバセットホルン、ヘンデル:序曲では18世紀初期のinD管、G.ゲラデッチ:ソナタでは18世紀後期のinB管でという様に、全てトリオにより演奏されましたが、この様なレクチャーは我が国で紹介されたのは意義深く思いました。音楽作品がこの世に生まれ落ちた当時に使われた楽器を使用しつつ、歴史の流れと共に紹介するレクチャー・コンサートは稀少であり、楽器の歴史などに関してももっと気軽に興味を持っていただき、今後、若いプレイヤーに方々にも、世界で人気の有名奏者だけに目を留めるだけではなく、このように地味であっても味わいのある演奏会にも気軽に足を運んでくれれば嬉しいですね。、

 

6. 想うこと

私が古楽器に魅せられ演奏(研究)を開始して約20年が過ぎました。今もう一度心を新たにして、古楽器演奏でのアプローチを続けて参りたく思っています。 そして、新たなチャレンジを模索して行きたいと思います。 古楽器を始めた頃は、今程情報も少なく、苦労をしなくてもいい苦労もしたように思います。無駄もあったことかと思います。また当時は演奏の機会さえ稀少でした。そのことを思う時、自分が育った環境のこの日本において、オリジナル楽器を使用してベートーヴェンの交響曲の全曲演奏が実現しましたことは私にとっては感無量です。 現在まで多くの人達に支えられ、また応援をいただきました。また多くの奏者にも出会うことが出来ました。この場をお借りして感謝の意をお伝えしたいと思います。 私一人のアイデアや力には限界もございます。今後とも演奏家の方々のご協力、また聴衆の皆様の応援の程よろしくお願いいたします。             三戸久史

日本クラリネット協会(JCS) 会報 No.92
寄稿《古典クラリネットでの取り組み》(2005)に補筆いたしました (2012. 3.15) 

(a) コレギウム・アウレウム合奏団(Collegium aureum)
1962年にテレフンケンへのレコード録音を目的に創設されたドイツの古楽器オーケストラ。1980年の来日時は、F.J.マイアーがコンサートマスターを務めていた。1976年に録音されたベートーヴェンの交響曲第3番「英雄」は、初めてのオリジナル楽器による演奏だった。
(b) 18世紀オーケストラ(Orchestra of the 18th Century)
1981年に F.ブリュッヘンにより創設されたオランダの古楽器オーケストラ。
(c) ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団 1888年創設のオランダのオーケストラ。現在の音楽監督はマリス・ヤンソンス(Mariss Jansons 1943~)。
このオーケストラには、1975年にピート・ホーニンング(Piet Honingh)氏と共に主席奏者に就任したG.ピーターソン(George Pieterson)氏が在籍されていました。
(d) ダンツィ・クインテット (Danzi Quintete) オランダの木管5重奏団で
メンバーは、フルート:フランス・フェスター(F.Vester)、オーボエ:ヤン・スプロンク(Jan Spronk)、クラリネット:ピート・ホーニング(Piet Honingh)、ホルン:アドリアン・ファン・ウーテンベルク(Adriann van Woudenberg)、ファゴット:ブライアン・ポラード(Brian Pollard)でした。 *Jan Spronk(オーボエ)の前任者は、Koen van Slogteren
(e) I.ミューラー(1786-1854) ロシア出身の楽器製作者、クラリネット奏者。
(f) J.X.ルフェーブル(1763-1829) パリ音楽院の初代クラリネット科教授。1812年、パリ音楽院での特別委員会のコミッティーの一人。作曲家のゴセック(Gossec 1734-1829)、
ケルビーニ(Cherubini 1760-1842)もこの委員会に参加した。
(g) ロンドン・クラシカル・プレイヤーズ(London Classical Players)
音楽監督: サー・ロジャー・ノリントン(Sir Roger Norrington)。1997年にエイジ・オブ・インライトゥンメント管弦楽団に統合された。
(h) パリ・シャンゼリゼ管弦楽団(Orchestre Des Champs Elysees) 音楽監督:P.ヘレヴェッヘ(Philippe Herreweghe)
(l) コンチェルト・ケルン(Concerto Köln ) ドイツの古楽器オーケストラ。
   音楽監督:R.ヤーコブス(Rene Jacobs)

(j) オーケストラ・シンポシオン  日本の古楽器オーケストラ。 音楽監督 :諸岡範燈氏
(k) 東京バッハ・モーツァルト・オーケストラ   日本の古楽器オーケストラ。 音楽監督 :有田正広氏。
(l) テレマン室内オーケストラ(日本テレマン協会)  日本の古楽器オーケストラ。古楽器オーケストラとしては、2007年より本格的にスタートさせている。音楽監督 : 延原武春氏。2008年にいずみホールにて、古楽器(クラシカル楽器)によるベートーヴェンの交響曲チクルス(本邦初)を行った。
(m)パリ・シャンゼリゼ管楽合奏団 (Harmonie de l’Orchestredes Champs Elysees) 。 パリ・シャンゼリゼ管弦楽団のメンバーで構成されている管楽合奏団。
(n) マテウス・シュタイン 19世紀初頭、ウィーンで作られたフォルテピアノ、 Matthaus Andreas Stein, Wien ca.1820(山本コレクション所蔵)。山本宣夫氏の修復による。ウィーン式アクションの楽器。
(o) ドイツのバセットホルン・トリオ。 主宰:ヨッヘン・.セゲルケ氏(Jochen Seggelke)