「蝶々の誕生」という無伴奏クラリネットのための作品がある。フランスの女流作曲家のデポルト(Yvonne Desportes)が、フランスのクラリネット奏者ダンゲン(Guy Dangain)氏に献呈した曲。そのダンゲン氏が来日された年(1980)、FM放送で聞いたのがこの曲に触る最初の機会だったが、印象はかなり強烈なものがあった。曲は幼虫、さなぎ、蝶(成虫)の順で演奏されるが、蝶が成虫になるまでの変態を描写している。現代奏法も織り交ぜられていて高度な技巧を求められている。例えば“重音奏法”を用いて、3つの音を同時に鳴らすことを求めている。具体的には特殊な運指を用いることによって鳴らすことが出来る現代奏法の一つ。また、グリッサンド(glisando)を用いて、卵から孵化した幼虫(いも虫)が体をくねらせている様子を表現しているのも興味深い。ダンゲン氏はフランス国立管絃団の首席奏者としても来日されていたので、フェスティバルホールでのコンサート(ベルリオーズ「幻想交響曲」他、指揮:L.マゼール)にも足を運んだ。又ダンゲン氏による公開講座&演奏会も開催され、受講生として指導を受けることも出来て大変有意義だった。
上の画像は早朝の自宅庭で偶然見つけた、ホシミスジ(Neptis pryeri)の羽化。ユキヤナギに産み落とされた卵が幼虫となり、蛹から成虫になっていたのを発見(2015.5月)したのだが、誕生したばかりの蝶は元気に飛翔するまでの時間、ゆっくりと且つ慎重に羽に力がみなぎって来るまで準備しているようだった。一瞬、蝶の声を聞いたような気持ちになった。